精密な骨盤の歪み研究、産後の骨盤痛に関する臨床研究

調査・研究

精密な骨盤の歪み研究、産後の骨盤痛に関する臨床研究

 

「骨盤の歪み」は本当に起こるのか?

「骨盤の歪み」、「歪み矯正」、「ホルモンによる骨盤の弛み」など言葉が巷に溢れています。これらは、いわゆる売れるテーマとして、週刊誌の特集テーマとしても頻繁に使われています。しかし、これらについて、何一つ精密な研究が行われていないことをご存知ですか?

「骨盤の歪み」ではなく「動き」についての研究は2000年代に幾つか発表されています。精密に動きを測るには、骨に金属のマーカーを打ち込んで、2方向からX線撮影を行なうRSAという方法が用いられます。皮膚の上にマーカーを貼る方法や、皮膚の上からの計測や評価法は、精密とはいえません。

骨盤が歪んでいることを実証

骨盤の歪みを「骨の歪み」と「関節の歪み」の2つの側面について分析した研究が公表されました。前職場である広島国際大学大学院で行なった研究で、当時大学院生だった伊藤一也先生、森戸剛史先生と私とが著者となりました。

The association between sacral morphology and sacroiliac joint conformity demonstrated on CT-based bone models.
Ito K, Morito T, Gamada K.
Clin Anat. 2020;33(6):880-886.
doi:10.1002/ca.23579

この研究の結果、仙腸関節痛患者において、高い確率で仙骨が左右対称ではない(骨が歪んでいる)、仙腸関節の上部が開いている(関節が歪んでいる)ことを明らかにしました。この研究で、初めて骨盤の歪みには骨の歪みと関節の歪みの2つが関与していることが証明されました。

産後の骨盤痛についての研究

蒲田研究室では、産後の骨盤痛の研究も行なってきました。幾つかの論文を公表してきました。以下は、いずれも現在西九州大学の講師である坂本飛鳥先生の博士論文に含まれた論文です。

Effects of exercises with a pelvic realignment device on low-back and pelvic girdle pain after childbirth: A randomized control study.
Sakamoto A, Nakagawa H, Nakagawa H, Gamada K.
J Rehabil Med. 2018 Nov 7;50(10):914-919.
doi: 10.2340/16501977-2487.

無作為化対照研究により、経腟分娩の翌日から1ヶ月間の運動療法の効果を比較しました。
介入は
R群: 骨盤を対称位置関係に誘導する器具を装着した立位での運動療法
S群: ヨーロッパガイドラインで推奨される骨盤スタビライゼーション
C群: 運動療法なし
の3群を設定しました。その結果、R群とS群はともに1ヶ月における痛みの軽減が認められましたが、その改善度はR群が優れていました。またR群のほうが運動療法直後の症状の悪化が起こりにくく、出産直後においてスタビライゼーションエクササイズよりも安全な運動であることが示されました。

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Natural History for Persistent Low Back and Pelvic Girdle Pain in Japanese Women during 12 months after Childbirth: A Longitudinal Pilot Study
Sakamoto A, Nakagawa H, Nakagawa H, Hoshi K, Gamada K.
Pan Asian J Obs Gyn 2019;2(2):57-64.

出産直後から12ヶ月間の腰痛・骨盤痛の自然経過を調査しました。その結果、産後1日よりは軽減したものの、83%の女性は産後12ヶ月においても何らかの腰痛・骨盤痛が残っていました。また産前・産後の症状、周産回数、出生時体重などいろいろな変数と産後12ヶ月の痛みの関連性を調べたところ、その危険因子は見いだせませんでした。

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Transcultural Reliability and Validity of the Japanese-Language Version of the Pelvic Girdle Questionnaire.
Sakamoto A, Hoshi K, Gamada K.
J Manipulative Physiol Ther. 2020 Jan;43(1):68-77.
doi: 10.1016/j.jmpt.2018.11.019. Epub 2020 Feb 13.PMID: 32061416

この研究では、骨盤痛の評価指標であるPelvic Girdle Questionnaire(PGQ)の日本語訳を作成し、その妥当性の検証を行いました。その結果、妥当性があるという結論となり、今回作成した「PGQ日本語版」は今後の産後の骨盤痛研究において使用可能という結論になりました。

現在は、産前から産後にかけて、骨盤がどのように歪み(もしくは開き)どのように改善していくのかを明らかにする研究を進めています。まだ分析は完了していませんが、数名の被験者では、一度開いた骨盤はもとには戻りませんでした。

 

上記の論文(full text)を入手したい方、共同研究(産後の骨盤アライメント研究)にご興味のある方(特にCT、MRIを有する医療機関にお勤めの方)は、メール にてご一報ください。 

 

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