乳腺炎が怖い! 産後のおっぱいのしこり・痛み・膿・熱・ひび割れ(亀裂)・しこり・・マッサージで治らない時どうする?

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乳腺炎が怖い! 産後のおっぱいのしこり・痛み・膿・熱・ひび割れ(亀裂)・しこり・・マッサージで治らない時どうする?

はじめに

赤ちゃん誕生!という喜びもつかの間、思っていた以上にカラダはボロボロ、3時間おきの授乳や夜泣きによる寝不足で、我が子は可愛いが手放しに楽しい!幸せ!とは言えない日々。友達が祝ってくれると言ってくれるが、笑顔にもなれず、正直会いたくないよ。

母乳が多すぎても少なくてもつらい日々。おっぱいのむくみや乳腺のしこりはいつも激痛。授乳で少し楽になっても、数時間でまたパンパン。

さらに追い討ちをかけるかのような乳腺炎。急激に全身が怠くなり、熱がみるみるあがる感覚がして、気がつけば胸の一部が赤くて痛い。岩のように硬くなったおっぱいのマッサージが死ぬほど痛い。有名な団体のマッサージを受けて一度は良くなっても、繰り返してしまう。

助産師さんの言う通りに食事や日常生活にきをつけているのになんでなの? 断乳したら治るかなと思って相談したら、「愛情が足りないよ」と非難されてしまう。どうしたらいいの???

このような切実な声を聴くことがあります。姿勢や運動を専門とするセラピストとして、何ができるのでしょうか? 今回は、「歪みと癒着の医学」という観点で、乳腺炎の症状改善と予防について書いてみたいと思います。

授乳中の痛み

 

1. 辛いおっぱいの症状

産後のおっぱいトラブルの代表的な症状としては、赤み、張り、しこり、痛みなどが代表的です。乳腺炎に進行すると、白斑、乳首のひび割れ(亀裂)、おっぱいの熱感などが目立ち、全身症状としても発熱、下痢、のどの痛み、頭痛などが起こり、寝不足も重なって倦怠感が最高レベルとなり、常に疲労困憊という方もおられます。

乳首の亀裂から細菌感染がおこると、膿がたまることもあります。そして、母乳過多、母乳不足などなかなかうまい具合にはいきません。

一番の問題は、乳腺炎が少し良くなっても、何度も繰り返す場合が多いことです。症状が悪化するたびに病院にいったり、おっぱいマッサージを受けたりという生活を繰り返すことになります。月齢が上がっても予防のために2-3時間おきに頻回に授乳しなければいけないという強迫感との戦い。いつまで続くか分からないことがストレスをさらに強めます。

 

2. 病態

●急性うっ滞性乳腺炎(急性停滞性乳腺炎)

母乳が乳腺内に溜まることで発症
乳房の腫れ、痛み、熱感が主症状
初産婦に多い
母乳育児の20~30%

 

●急性化膿性乳腺炎

乳管から細菌に感染して乳腺が炎症を起こした状態
乳房の発赤、腫脹(赤く腫れた状態)、痛み、高熱などに苦しむ
細菌を殺すために抗生剤が処方される
必要に応じて切開・排膿などの局所的な外科処置

 

●慢性乳腺炎

乳腺炎が慢性化した状態
炎症症状は軽いが、日夜痛みや微熱が続く

 

3. 一般的な対処法

一般的に授乳トラブルの相談先は「助産師」となります。おっぱいケアを専門とする方もおられ、種々のケアが行われています。

① 授乳・搾乳

軽い症状の場合、乳房の張りを軽減するため、高頻度に授乳・搾乳で母乳を排出することが推奨されます。乳房から母乳を絞り出すようにする器具を使った「電動パンピング」を勧められる場合もあります。

重症化して乳腺炎になると、痛みが強いため自分では対処できなくなります。どちらも強い苦痛を伴いますが、母乳が出ないともっと張りが強くなるから、ということで排出を勧められる場合が多いようです。基本的には、助産師が排乳させて、あとは児にひたすら飲んでもらう、ことが望ましいとされています。絞りすぎてもさらに産生されてしまうので、バランスをみながら排出していきます。

② 冷却(炎症の沈静化)もしくは温熱

基本的に炎症症状があれば炎症の鎮静化のために冷却が推奨されます。理想的な冷却の方法はいわゆるアイシングで、皮膚温を5度以下にすることで深部の温度が有効に下がります。

熱さまシート(冷えピタ)やキャベツを貼るという方法は「ひんやりして気持ちが良い」という程度で、実質的に炎症を鎮静化する効果は期待できないと思われます。乳頭亀裂など損傷がある場合、キャベツによってリステリア感染の報告があり、推奨されません。医師とよく相談してください。

炎症症状(熱や赤み)がない場合で、循環を改善することを目的に温熱が勧められる場合もあります。ウエブ上に温熱が望ましいと書いてあっても、炎症があると逆効果です。炎症があるかどうかは体温計で判断できますが、わきの下で計ると乳房の炎症の影響で熱が高く出てしまうので、肘をまげて体温計を挟む方法が望ましいとされています。

ただし、全身の発熱がなくても、乳房の局所に熱がある場合、温めることで炎症を悪化させる可能性もあるため、迷った場合は冷却が推奨されます。

 

③ 悪化因子を排除

悪化因子とは、症状を悪化させる可能性のあることを指します。具体的には、
・入浴(炎症がある場合)
・疲れ、ストレス(寝不足)
・栄養(脂肪過多など)
などが代表的な悪化因子とされています。入浴を避けて、シャワー浴で胸をあたためすぎないよう短時間で浴びるようにしましょう。

④ 助産師によるマッサージ

助産師はおっぱいケアの専門家として最前線で活動しています。桶谷式などいろいろなマッサージの方法があり、それぞれ効果や痛みが異なります。一般的には、自分で搾乳するだけでも激痛がある状態で、それをさらに柔らかくなるようにもみほぐすので、とても強い痛みを伴う場合が多いのです。

助産師でもいろいろな技術を使う方がおられるので、いろいろと評判を聞きながら自分に合った助産師を、納得いくまで探すことをお勧めします。

 

⑤ 投薬

授乳中は薬を飲めない、と思っているママが多いようですが、授乳中にも飲める薬はあります。細菌感染の有無について決め手になるのは搾乳による検体検査であり、黄色ブドウ球菌などが検出された場合に抗生剤が処方されます。いくつか例を挙げると、「経口用セフェム系抗生剤」として「フロモックス」「メイアクト」「セフゾン」などがあり、医師による処方が必要となります。

「イブプロフェン(ロキソニン)」は副作用が比較的少ないとされている非ステロイド性消炎鎮痛剤であり、市販薬にもこの成分が含まれているものがあります。

「アセトアミノフェン(カロナール)」は子どもにも処方されることがある解熱鎮痛剤で、市販薬にもこの成分が含まれているものがあります。

いずれにしても、薬の処方は種々の検査や全身症状から医師が判断すべきものです。医学的根拠がない評判などもあるため、薬については医師に相談しなければなりません。

 

4. メカニズムについての仮説

私は理学療法士ですので、助産師さんのような直接的なおっぱいケアを行うわけではありません。主に、痛みやしびれの治療をすることが多いので、腕がしびれたり重度の肩こりや頭痛などを治療することがあります。

手や腕がしびれるとき、「胸郭出口症候群」といって胸の前(鎖骨の下)の神経の通り道で神経が圧迫されている場合があります。そのような時、神経の圧迫を取り除くために、筋肉を指先で優しくリリース(滑らせる)することがあります。そのような治療で手や腕のしびれが解消される場合がありますが、同時におっぱいがとても楽になったという報告を受けることがあります。

その後、私が主催しているセラピスト向けの「周産期ケア勉強会」で、授乳中のママセラピストが参加された際に、乳腺炎の悩みを聞くことがありました。乳房から出てくる静脈にそって筋肉を弛めていくと、乳房の張りが軽減されることがわかり、もしかしたら乳房が張るのは静脈内の血液の流れが滞っているからではないかと考えるようになりました。

 

<<コンパートメント症候群について>>

私は理学療法士ですが、もともとはスポーツリハビリの専門家で、スポーツ現場でのトレーナー活動をしていました。少し運動すると筋肉がパンパンに張ってしまう「慢性コンパートメント症候群」というものがあります。コンパートメントとは「閉ざされた部屋」のような意味です。

筋肉を包んでいるファシア(膜状の組織)が硬い場合に、動脈から筋肉内に血液が流れ込み、静脈は圧迫されてつぶれてしまうので血液が流れ出ない、という状態になります。ほとんどの場合、運動を止めて数分間休むだけでも症状は軽減されます。まれに、手術をしなければ症状が改善しないような「急性コンパートメント症候群」が起こることもあり、慎重な対処が求められます。

授乳期には、乳房内の乳腺が入っているスペース(閉ざされた部屋)に動脈血が流れ込み、母乳が増えることと重なって乳房内の圧が上昇する状態が起こりやすいと推測されます。その結果、血液を外に出す静脈がつぶされてしまうと、血液の出入りのバランスが崩れてしまうことが推測されます。

このようなメカニズムについて、論文を検索して調べてみましたが、乳腺炎の治療法として静脈の流れを改善することを意図した治療法は確立されておらず、またこのメカニズムについても研究されていないようです。今後、助産学分野の研究テーマになることを期待したいと思います。

乳房周辺の血管

乳房周辺の血管のイラスト、解剖図、血管造影

 

5. 「張り」を劇的に軽減する血流改善

乳腺炎を含めた授乳トラブルのメカニズムとして、慢性コンパートメント症候群のような状態であると仮定すると、
・マッサージ
・温熱
症状を悪化させる可能性が高いことが容易に想像されます。マッサージによる刺激は乳腺をさらに刺激して、炎症とともに母乳産生を促進してしまう可能性もあります。乳腺炎だと思っても、それが乳がんだった場合、がん細胞をひろめることにもつながるからむやみにマッサージすべきではない、という立場の医師もおられます。

痛くない効果的な乳房マッサージを行うには、乳腺を過度に刺激せず、血流を上手に改善することを意識した技術を用いるのが望ましいと思われます。

私はもともと筋肉や神経の癒着をリリースる治療を行ってきました。鎖骨の下の神経をリリースするときには必然的に血管の周囲の筋肉や神経のリリースも行います。このため、手や腕のしびれの治療において、副産物として血流の改善も起こると考えられます。実際に胸郭出口症候群のいち症状として手首の血管の拍動が弱くなる症状もありますので、副産物というよりも血流改善を意図して治療することもあるのです。

 

この技術を、乳房に応用することは簡単です。鎖骨の下を通る大きな静脈は鎖骨下静脈(腋窩静脈)といいます。これから、胸肩峰静脈外側胸静脈が枝を出し、乳房に入っていきます。一方、胸の中央部分からは内胸静脈からの枝で、前骨間静脈が肋骨の間を通って乳房の内側に入っていきます。乳房内の血液のうっ滞を改善するには、血液を心臓に戻すための静脈の流れを改善することが不可欠だと考えられます。

セラピストとしての乳腺炎治療は、これらの静脈を押さえつけている筋肉をリリースし、静脈の流れを改善することになります。静脈を指でたどるためには私が提唱している「精密触診」という技術を習得する必要がありますので、誰にでもできることではありません。私の精密触診セミナーを受講したセラピストのみができる技術なのです。

鎖骨下静脈・胸肩峰静脈リリース

胸肩峰静脈、鎖骨下静脈のリリース

次に、組織間リリースという手を使った癒着のリリース技術を用いて、血管の深部の筋肉、血管の表層の筋肉を血管からリリースして、血流を改善していきます。さらに、熟練すると、静脈をたどって乳房への入り口を開放するようなリリースもできるようになります。

胸肩峰静脈の血流の変化

胸肩峰静脈の血流の変化

 

下のビデオは、産後2ヶ月の方で、右側のみリリースを行った直後の様子です。右の乳房はどの方向から押しても痛みがなく、左に比べてふわふわに柔らかくなっているのがわかります。

 

 

次の方は産後7ヶ月。事前に静脈のリリースを行ってあったので、このとき症状は軽かったのですが、それでも乳腺のしこりを押すと痛みがありました。乳腺の基底部のリリース後はどの方向から押しても痛みのない状態になりました。

 

下のビデオは上の方のエコー画像です。具体的には、胸肩峰静脈と乳腺基底部を手でリリースした前後の映像を並べて表示しています。ビデオの前半はBモードで、基底部(大胸筋(PM)側の浅層ファシア)から乳腺の腺葉部(楕円)が浮いて解放されているのがわかります。後半はドップラー画像で、ちょうど5秒くらいのところで静脈が皮下脂肪エリアから乳腺エリアに入ります。血流量が大幅増加しているのがよくわかります。

 

 

 

治療効果の検証について、現在症例を蓄積するための準備中です。全国の産後ケアに関わる女性セラピストと協力して、静脈の血流改善の効果についての研究を進めたいと考えています。

 

6. 再発予防と姿勢改善

静脈のリリースによって乳房内の血液のうっ滞が改善すると、水風船から水が流れ出るように乳房の張りが軽減されてしぼんでいきます。同時に、出にくかった母乳が勢いよく出るようになります。その結果、授乳のたびに乳房の張りが軽減され、その日のうちに、何とうつぶせに寝ても痛くない状態にまで改善する場合もあります。

その状態を保つには、胸の前の筋肉を固くしないための予防策に取り組んでもらう必要があります。一言でいうと、姿勢改善と肩甲骨の動きの改善が不可欠です。

産後の姿勢

産後の姿勢

姿勢改善の要点

① 猫背の原因は体の前が硬いため。特に胸を下方向に引き下げているお腹の筋肉や皮膚の癒着をリリースして、胸を張りやすくします。

腹部のリリース

② 肋骨の動きを改善するため、リアライン・コアを用いた運動を行い、さらに胸を張りやすくします。

リアライン・コア胸郭

③ 肩甲骨の動きを制限している肩甲骨周りの神経や筋肉の癒着をリリースします。

肩甲骨周囲のリリース

④ 肩甲骨を後方に引くように、フォームローラー(リューティ・ポール)を用いた姿勢改善エクササイズを行います。

胸郭コンディショニング

ソラコン ThoraCon、胸郭コンディショニング

⑤ 最後に、抱っこ紐による肩の上側の圧迫は肩甲骨の動きと鎖骨の動きを制限しやすいため、肩を動かしやすい抱っこ紐の選択が重要となります。

抱っこ紐

 

肋骨の変形ついてはこちら、腕のしびれについてはこちらをご覧ください。

 

まとめ

つらい乳腺炎や授乳トラブルのすべてを改善できるわけではありませんが、乳房の血液のうっ滞を改善することで少なくとも乳房の張りを劇的に軽減することができます。基本的には医師による診察で細菌感染や乳がんなどの病気がないことを確認することが出発点であり、その次には助産師にいおる乳房ケアを受けていただくことが必要です。しかし、それでも改善しないような重度の乳腺炎になってしまった場合は、血流を改善する方法を試してみてください。


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さらに興味のある方へ

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■ リアライン・コアについての情報はこちら
■ リューティ・ロール(アクシスフォーマー)についての情報はこちら

 

 

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