妊娠中少し食べると胃が張って痛くなり、背中が痛くなる!

ウィメンズヘルス

つわり期が終わったのに食べられない!

「つわり期が終わりに近づき、匂いに対しても気持ち悪さが減ってきた。やっと食べられる!」と喜んだのに、食べられない。少し食べると胃が張って痛くなり、戻してしまう。さらに胃が張ると必ず背中も痛くなる。妊娠中なので薬も飲めず、どうにもならない。こんな症状にお悩みの方が案外多いようです。これが妊娠後期まで続いてしまうと、「後期つわり」と呼ばれる場合もあります。

書籍を調べてみても、あまり説得力のある説明は書かれておらず、解決策もなさそうです。このような悩みを持つ一人の女性の産後ケアの際に、痛みがどこから出ているのかを詳しく調べたところ、具体的にメカニズムが分かってきました。

食べられないのはなぜ?

つわり期が終わる16週くらいになると、お腹が目立ってきます。子宮はへその高さくらいにまで拡張していますが、まだまだ胃を圧迫するような大きさではありません。

胃は確かに硬かった

胃の周辺を丁寧に触ってみたところ、確かに胃は硬く感じられます。具体的には、胃の上部の入り口(噴門)はコリコリとした感触で、通常の噴門の柔らかさとは全く異なります。次に胃の中央部(胃体)から子宮に向けて腹筋がピンと張っています。胃の出口(幽門)は肝臓に接近していて、噴門ほどではないにしても幽門の右半分が硬く感じられます。確かに胃の回りは張っていました。

噴門に沿って迷走神経(副交感神経)が下りてきます。通常、迷走神経は左右にあって、噴門の左前部と右後部にあります。これに触れてみると、噴門に強く癒着して硬くなっていました。これによって噴門は閉鎖不全が起こっている可能性があります。噴門が閉まらないと、胃酸が逆流しやすくなりムカムカ感が起こりやすくなります。

幽門の右側には肝臓があります。肝臓に向かって接近している場合は、肝臓側に癒着が起こり幽門が硬くなっている場合があります。これは消化したはずの食べ物を胃から出すことができない状態になっている可能性があります。このためなかなか胃が空にならず、長時間に渡って胃もたれが起こる可能性があります。

腹筋の硬さの正体は?

胃の前面から子宮に向かって張っているのは、その大きさからみても胃ではなさそうです。一方で、その部分を圧迫すると気持ち悪さが誘発されるので、腹筋そのものでもなさそうです。精密触診で詳しく分析したところ、胃の前側から垂れ下がっている大網(腸間膜)と腹筋の裏側にある前腹膜とが癒着しているようにも感じられます。大網が緊張すると、胃を引き下げることになるので、胃が張って感覚になることも理解できます。

子宮の大きさからみて大網が子宮で直接圧迫されたわけではなさそうです。もともと大網と前腹膜は軽い癒着が起こっている状態があったのかもしれません。そのうえで、子宮が大きくなって腹筋群が下方に引かれて緊張していること、つわりきの嘔吐の繰り返しで腹筋が繰り返し強く収縮して硬くなっていること、さらに胃の痛みによるスパズム(防御性収縮)が起こっていることなどで、腹筋とともに大網が強く緊張したのだと推測しました。

そこで、大網と前腹膜の間を組織間リリースしてみたところ、腹筋が弛み、胃も柔らかくなって押してみ痛くない状態になりました。どうやら大網を介して、腹筋と胃が引っ張り合っていることに間違いなさそうです。

胃を柔らかくする方法は?

上記のようなメカニズムで胃が張っているとすると、生理的な反応ではなく、癒着によって起こっている問題と捉えられます。それならば、組織間リリースで改善できる可能性があります。実際に、噴門部では迷走神経や胃の裏側の後腹膜と噴門の間をリリースし、幽門部では幽門と肝臓との間のリリースを行ったところ、正常な柔らかい噴門と幽門になりました。次に腹筋の裏側で、大網と前腹膜のリリースを行って、腹筋と胃が柔らかくなり、どこを押しても痛くない状態なりました。

背中の痛みの正体は?

背中の痛みは動くと痛みが変化するので、内臓ではなくおそらく背骨や筋肉などに問題があると推測しました。精密触診してみると、背骨の中央に一番近い多裂筋とその外側にある最長筋との間に強い癒着があり、幅1cm程度のしこりをつくっていました。しかも、肩甲骨の上部から腰部まで、上下に30cmほどの長さがありました。これを押すと確かにいつもと同じ痛みが誘発されました。

背筋を柔らかくする方法は?

背筋にこのようなしこりができることは珍しくありません。様々な治療法がありますが、このしこりの構造が分かっていないと解決することはできません。今回、精密触診で2つの筋が癒着していることを突き止めたので、2つの筋の滑走性を取り戻すような治療が必要であることがわかります。

実際に上下30cmに渡って両筋間をリリースしてみたところ、圧痛や背中を丸めたときの伸張痛、体を反らせたときの収縮時痛が解消されました。かんたんにいえば筋肉痛ですが、放置しても解決されないタイプの筋肉痛であるといえませす。この方の場合は高校生くらいから15年間持ち続けていた痛みだったとのことで、慢性疼痛とも言える状態です。MRIやエコーでは全く異常が見つけられないのも特徴です。

胃の痛みと背筋痛が同時に起こるのはなぜ?

この方の症状は、胃痛が起こるときには必ず背中も痛くなる、というものでした。何かが胃と背中をつないでいるとしか考えられません。内臓は自律神経の支配を受け、背筋は体性神経の支配を受けます。別の神経ではありますが、脳の中ではいろいろな連絡があるようです。

例えば、首の前の交感神経節にふれると頭痛が誘発される場合があります。これと同様に、胃の裏側の交感神経にふれると頭痛が起こる場合もあるのです。これらは交感神経の刺激が頭部の筋肉を緊張させ、頭部の神経を刺激することによって起こると考えられます。その証拠に、頸部の交感神経ブロックでも症状は改善しますが、頭部の末梢神経の癒着をリリースしても症状が改善します。交感神経への異常な感覚入力が頭痛を引き起こす代わりに、もともとしこりがあって敏感になっている背筋に症状を引き起こしても不思議ではありません。

胃の裏側をリリースすると背部痛が起こった!

胃の裏側には、後腹膜を介して交感神経があります。胃の裏側は後腹膜に癒着していたので、これをリリースしようとすると、背部痛が誘発されたのです。どうやら、胃の裏側の交感神経が仲介役となって、胃の痛みと背筋の痛みが連動しているようでした。このため、胃を後腹膜からリリースしたところ、胃の裏側が柔らかくなるとともにリリース時痛が解消され、同時に背中の痛みも大きく改善しました。

自律神経の不調という表現は誤り?

上記のようなメカニズムが正しいかどうかはわかりませんが、少なくともシナリオとしては理解できます。自律神経由来の症状は多彩で、ある意味では説明の使いない不調に対して「自律神経の問題かも」という言い方がされることさえあります。「ストレスかも」というのと同じで、説明がつかないときの決り文句のようにも聞こえます。

自律神経の問題であるならば、交感神経か副交感神経のどこかを刺激すると、同じ症状が誘発されるはずです。症状を再現することによって自律神経の問題であることが明らかになります。本症例を経験して、自律神経由来の症状を分析する上で、頸部だけでなく腹部の触診が重要な意味を持つことがわかりました。今後の研究を期待したいと思います。

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