臨月の仙腸関節痛も治る?

ウィメンズヘルス

臨月の仙腸関節痛

妊娠後期・臨月であっても普通の仙腸関節痛として治療できます。「妊娠中だから骨盤は弛い、弛いから治せない」という先入観を持った時点で、治療者としては思考停止に陥ります。今回、妊娠36週の仙腸関節痛の治療経験を紹介します。治療の結果、以下のような効果が得られました。

<以下,本人コメント>
昨晩はとても快適に眠ることができました! 寝返り、ブリッジも全く痛みがなく、痛みで目が覚めることもありませんでした。治療前、自分ではあまり気になっていませんでしたが、寝返りの際の、股関節の動きもすごく楽な気がします。つまった感じもないですし、屈曲内転時に骨盤への負担も全く感じません。

妊娠中の仙腸関節の痛みの原因が骨盤輪の「弛み」であったとしても、非妊娠者の「弛み」と大きく異るわけではありません。また本格的に弛くなるのは出産2週間前で、それまでは十分に対応可能なのです。そして骨盤の歪み(マルアライメント)は幾つかのパターンに分類され、それを修正する方法があるということについても妊娠者と非妊娠者とで大差ありません。すなわち、非妊娠者の仙腸関節痛と同様に,骨盤アライメントをしっかりと把握し,原因因子とマルアライメントの治療によるメカニズムの治療,そしてその後に残る結果因子の治療をすれば症状は改善します。

妊娠32週の骨盤後面痛

妊娠32週には骨盤後面の痛みのために、寝返りができない状態でした。仰向けから脚を挙げようとしたり、体をひねって横にむこうとするだけで激痛が走るとのことで、私の産前ケアを受けに来られました。
  
精密触診によって発痛源を探索したところ、中殿皮神経という皮膚の神経に痛みがありました。この神経は仙骨から外側に向かう神経なので、仙腸関節が開くことによって引っ張られて痛みを作ることがあります。しかし、この方の場合は骨盤後面の仙腸関節が開いた状態ではなく、安定した状態でした。むしろ、妊娠後期に入って殿部の皮下脂肪が増えてきて皮神経が引っ張られて起こった可能性が強いと考えました。
  
■症状と骨盤の状態 
・主訴:左仙腸関節痛(中殿皮神経痛) 

・アライメント:仙骨が左傾斜し、仙骨の下方にある尾骨は右に移動している状態でした。仙骨が傾くことによって仙腸関節のは押し広げられてしまうため、仙腸関節をまたぐ中殿皮神経は引っ張られてしまいます。 

痛みの原因を、骨盤の「弛み」ではなく仙骨の傾斜を含む「歪み」にあると判断しました。加えて、皮下脂肪の増加による皮下のファシアが引っ張られ、中殿皮神経が引っ張られていることと想定されました。そこで、治療としては、仙骨の傾きの修正、中殿皮神経の癒着のリリースの2つに絞りました。
 
・治療: 
1)右仙結節靱帯・大殿筋間のリリースにより仙骨アライメントが改善。  
2)左中殿皮神経のリリースにより主訴が消失。(ただし、ブリッジの際の疼痛が残存)
 
以上のように、組織間リリースによって徒手的に仙骨の傾斜の原因となっている殿部の癒着のリリースを行い、その後に中殿皮神経をリリースしたところ、中殿皮神経の痛みは解消されました。


妊娠36週における骨盤後面痛

32週の時点で骨盤後面の痛みを消失させることができました。しかし、臨月(36週)に入り、また骨盤後面の痛みが出てきました。さすがに臨月に入ってからの骨盤の痛みなので、いわゆる「弛み」を想定すべきです。しかし、だからといって快適な生活を諦める必要があるかどうかということには直結しません。どの程度の改善が見込めるかは、骨盤の弛みや歪みを精密に把握した上で判断すべきことです。
     
■骨盤の状態
・主訴:両仙腸関節痛(右>左)
・不安定性(弛み):徒手的に動かそうとしても可動性の増大は認められず、「弛んでいるとは言えない」状態と判断しました。
・アライメント:仙骨右傾斜(尾骨左偏位)、左寛骨内旋、右寛骨前傾といった骨盤の歪みが認められました。
  
以上にように、36週であっても骨盤には「歪み」があり、「弛み」は認められませんでした。皮膚の上からの触診で歪みを正確に判定するのは簡単ではありません。また誤った判断を下してしまうこともあります。そのようなエラーを無くすためには、歪みを判定した上で、歪みを矯正するように手で骨盤を固定した状態での痛みの変化を確認します。骨盤上部が開いていると判断した場合には、骨盤上部を内側に押し込んで開きを矯正した状態での痛みの変化を調べます。歪み矯正を行うリアラインテストによって痛みが軽減した場合には、歪みの判断が正しかったことが裏付けられることになります。

治療

仙骨は右に傾き、左右の寛骨が内旋(前部が内側に閉じ、後部が外側に開いた状態)であると判断しました。これを矯正するリアラインテストで痛みの軽減が得られました。専門的になりますが、以下のように骨盤の歪みを作っている筋肉などの癒着をリリースし、上記で判定した歪みを改善させることができました。それとともに、痛みが軽減され、冒頭に記載したコメントのような効果が得られました。
  
■治療:  
1)右仙結節靱帯・大殿筋間のリリースにより仙骨アライメントが改善。 
2)両縫工筋・長内転筋間、鼠径靱帯・大腿静脈/動脈のリリースにより、PSIS間距離が短縮
3)右鼡径部の大腿神経・小殿筋/外側広筋、腸骨関節包筋・関節包とのリリースにより右寛骨前傾が改善 
4)両長後仙腸靭帯、両中殿皮神経のリリースにより疼痛解消
   
■治療後のコメント
 昨晩はとても快適に眠ることができました! 寝返り、ブリッジも全く痛みがなく、痛みで目が覚めることもありませんでした。治療前、自分ではあまり気になっていませんでしたが、寝返りの際の、股関節の動きもすごく楽な気がします。つまった感じもないですし、屈曲内転時に骨盤への負担も全く感じません。

まとめ

この4週間の主な変化として、PSIS間距離の開大が顕著で、両仙腸関節に痛みが出現していました。ASIS間距離の開大は認められなかったため、寛骨内旋による仙腸関節へのストレスが原因と推測しました。臨月に、水平面のアライメント変化が優位に起こるのが一般的かどうかはわかりませんが、少なくともこの段階は十分に治療可能なレベルであり、もうしばらくは快適な睡眠と歩行を得ることができそうです。
 

出産に向けて仙腸関節が弛んでくることはある意味当然かも知れませんが、それに対する治療としては「少し仙腸関節が弛い人」に対する治療と同様に考えれば良いということになります。つまり、骨盤の前面を内側に引く縫工筋を弛めることにより、仙腸関節へのストレスを軽減させるに十分なアライメント変化が得られました。その後に行った結果因子としての長後仙腸靭帯と中殿皮神経の痛みについても、一般的な仙腸関節痛と同様の症状であるとともに、同様の治療効果が得られました。 

 

ただし、経験上38週以降は明らかな弛みが生じてくるので、治療効果は限定的です。その場合は、痛みを軽減させることよりも、出産に伴う骨盤のダメージを最小限に留めることを目標とした治療に切り替えます。すなわち、左右の仙腸関節と恥骨結合が均等に動く状態を確保し、どれか一つの関節に重度のダメージが起こりにくい骨盤に誘導していきます。

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