医療資格者に「精密触診教育」を!

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精密触診とは?

「精密触診」とは聞き慣れない言葉ですね。それもそのはず、「精密触診」は蒲田和芳が作った言葉です。以下の定義に沿って使っていただくために、商標として登録しました。

<商標について>
商標は特許庁に申請し、必要な費用を支払って言葉の独占的な使用を認められたものです。勝手に定義を変えたり、ビジネスに用いたりすると商標侵害で訴えられますので気をつけてください。精密触診という言葉を使う場合は、私が公表した記事や論文を引用するか、直接私からの許諾を得ていただく必要があります。

さて、精密触診の精密が意味することは、以下のことを含むものと定義します。
①浅層・深層を問わず末梢神経や血管など小さい組織を同定できる
②組織を辿ることでその連続性や形状、走行を空間的に理解できる
③組織の癒着を探知できる
④触れた組織を超音波画像上で描出し、その形状や走行を照合できる

例えば、深殿部痛(deep gluteal pain syndrome)において、梨状筋の深部において坐骨神経と梨状筋との癒着を探知できること、後大腿皮神経と内閉鎖筋との癒着を探知できること、を含められそうです。また、浅腓骨神経、伏在神経、正中神経、橈骨神経を辿り、その癒着を探知できること、などを含めたいと思います。小胸筋と腕神経叢の癒着も触知します。

深部の組織を触診するには、アクセスルートを確保しないとうまく触れられない場合もあります。そのためには、浅層から深部にかけてのルートを確保するために、組織間リリースで癒着をリリースしながら深部に進入して、深部の精密触診を行います。すなわち、深部においてはしばしば精密触診は組織間リリースと併用されます。

痛いところに手が届かないと原因がわからない

先日、数ヶ月の臥床を経験した人の「殿部痛」の治療を経験しました。いわゆる深殿部痛(deep gluteal pain)の範疇に入るものでしたが、結果として圧痛は陰部神経、梨状筋深層(関節包側)、小殿筋深層(関節包側)に認められました。しかも、組織間リリースにより疼痛は解消されたことから、癒着が痛みの直接的な原因であったと推測されます。

この方はこれまで様々な治療を受けてきたようですが、これらの圧痛点を見つけてくれたセラピストはいなかったとのことでした。これらを見つけられるか否かで治療結果は大きく差が出ることは明らかです。特に、癒着に基づく症状においては、全ての発痛源をもれなくエコーで捉えることも容易ではありません。損傷や炎症がないので、MRIではほぼ見つかりません。そういう意味で、原点に帰って、痛いところに触れること(触診)の重要性が高まるタイプの病態と言えます。

慢性的な神経の痛みでは、発痛源は1箇所や2箇所ではなく、神経全長に渡って分布している場合が有ります。例えば慢性的な坐骨神経痛では、当初の原因であった腰椎椎間板ヘルニアの治療が終わっても痛みが残る場合があります。殿部から足部まで、坐骨神経から脛骨神経・総腓骨神経、さらにその末梢の枝に至るまで、どこに発痛源があっても不思議ではありません。そして、このように二次的に生じた発痛源は、ほとんどの場合エコーやMRIで見つけることができません。このような症状を「原因不明」と考えてしまうとそこで思考停止に陥り、メカニズムの分析が進みません。ひどい場合には、原因が分からないことを認めず、患者に責任を押し付けてしまうようなこともあります。

疼痛の発生源が見つかれば、あとは治療手段はいろいろあります。徒手的組織間リリース、ハイドロリリース、場合によっては内視鏡手術による剥離術なども選択肢となります。一方で、発痛源がわからなければ、いつまでたっても深殿部痛(すなわち原因不明)としての治療になってしまいます。腹痛で病院に行ったときに「痛み止め」だけでは、痛みの原因はわからないまま、そして悪化の一途をたどることになりかねません。

卒後教育における精密触診の重要性

私は幾つかの医療機関(整形外科)と契約し、セラピストのアドバイザーを務めています。その中で、特に重視しているのは「推測を排除した客観的な評価法」の教育です。それによって、事実に基づく治療法が選択されます。

運動器疾患の治療を進める上で、関節の治療、痛みの治療、機能の治療の3つの要素を的確に進めて行かなければなりません。

  • 関節の治療では、拘縮や変形に対して癒着をリリースしながら、可能な限り理想に近いアライメントと可動性を獲得させることが目標となります。
  • 痛みの治療では、発痛源を神経一本、血管一本のレベルにまで絞り込み、その痛みの原因を特定し、必要に応じてその痛みの原因となっている癒着のリリースを行います。
  • 機能の治療では、関節や痛みの治療を終えた後に、神経筋の機能を改善して、望むべき運動能力の再獲得を目指します。筋とその周囲の組織や器官との癒着が筋機能の回復を制限している場合があるため、機能の治療においても精密触診が重要な役割を果たします。

例えば、股関節屈曲時のつまりに対して、その発痛部位候補としてFAI、大腿直筋反回頭、腸骨関節包筋、腸腰筋深層、大腿動・静脈、大腿神経とその枝などがあります。これらから鮮明な圧痛点を見つけることで、治療方針ははっきりと定まります。

上記のような治療をすすめるにあたり、正確に癒着の存在を同定したり、発痛源を同定したりすることが不可欠です。しかし、正確な触診によって上記の裏付けをとることができるセラピストはそれほど多くはありません。痛いところが見つけられないから、治療の焦点も定まらないことが多くなります。すなわち、精密触診を学ぶのあるセラピストが多いように感じています。

関節の治療、痛みの治療、機能の治療のいずれにおいても、癒着に対する「組織間リリース」の技術が必要となります。しかし、組織間リリースの技術を習得するためには、「痛いところに手が届く」、「痛いところを見つけてあげられる」、「癒着の入り口」を正確に見極めるための触診が不可欠です。つまり、精密触診の技術なしに組織間リリースの技術習得はありえないのです。

エコー下精密触診を発展させるための教材開発

精密触診の技術を高めるには、指の使い方、解剖の知識、エコーによるリアルタイムの検証の3つが重要となります。特にエコー画像上で、指先で触れているもののみが動くような触り方を習得すると、確実性が高まります。しかし、それは容易ではありません。細い神経を指で押す際に神経の中央を少しだけずらした位置を押すと、指先から逃げるように神経が動きます。このとき、その神経の組織はそれほど動かないので、触れている神経を画像上で見つけることができます。臨床現場でセラピストが自由にエコーを使えるような環境があると理想的です。

精密触診を広めるためには、エコーを含めた視覚化をさらに発展させて、リアルタイムで触診の精度を確認できるようにすることが必要だと考えています。それを習得してもらうためのテキスト、セミナー、ビデオ、VR、3Dアプリなども必要です。今後、いろいろな企業の方にも呼びかけて精密触診を普及させて行こうと思います。

学生教育における精密触診

私は前職である広島国際大学において、大学3年生にスポーツ外傷治療学およびその演習を教えていました。演習の時間は評価と治療の要点を体験してもらうのですが、その中でも約30分を触診に割いていました。授業中にできるのは数箇所ですが、学生にとってはかなり難易度の高い触診を求めていました。

骨盤の授業では、PSIS、ASIS、長後仙腸靭帯、仙結節靭帯、梨状筋下縁、坐骨神経など主だった組織の触診を行いました。もちろんうまくできない学生も多いのですが、組織間リリースのセミナーと同様に「指取り指導」により、深さ、輪郭に触れた感触を共有することができます。60名以上の学生がいたので全員の指取りは不可能ですが、合計15回の授業で数回は経験してもらいました。精密触診に習熟すると、組織間リリースも自然にできるようになります。中殿筋と小殿筋の間にある上殿神経を見つけることができれば、これらの筋間のリリースも容易になります。

このような精密触診という概念を改めて提唱し、その教育を本格的に行う必要があると思っています。PT・OTはもちろん、柔道整復師などの治療家、そして医師も対象になると思われます。書籍、講習会、授業などいろいろな伝え方があるので、いろいろな教材・講習に取り組んでいます。医療資格者になる前に、触りたいと思えば何でも指先で同定できるようになってもらうのが目標です。

2022年度には以下の大学・養成校で精密触診の授業を担当します。

  • 京都橘大学
  • 北里大学
  • 昭和大学
  • 富山リハビリテーション医療福祉大学校

「精密触診」の技術の必要性にご賛同いただける場合は是非お知らせください。

精密触診はとても奥の深い技術です。慣れてくると、腹部から内臓の内部の状態もある程度わかるようになってきます。内臓の奥にある交感神経に触れて症状を誘発したり、子宮周囲の癒着に触れて生理痛と同じ痛みを誘発したりすることもできます。癒着と症状の関係を探索する上で不可欠な技術であるとともに、現在の医療や医学研究において失われつつある重要な要素であると確信しています。多くの学生や医療資格者への普及のため、何卒ご協力のほどお願い申し上げます。

組織間リリースを学びたい方はこちら https://seminar.realine.org/

蒲田の開発した商品(リアライン商品)にご興味のあるかたはこちら https://glab.shop/

 

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