原因不明のガンコなお尻の痛み
殿部の末梢神経を全長にわたってリリースしても、2-3日で痛みが再発する例が稀に経験されます。リリースの完成度が低いのかと思っていましたが、大坐骨孔から出る神経すべてに痛みが再発するので、どうも狙いどころが違うみたい。
大坐骨孔を通る神経・血管すべてがひと固まりの束状になり、しかも仙棘靱帯や仙腸関節下面の関節包、そして仙骨神経叢が仙骨前腹膜と癒着していると思われる症例を経験しました。
痛みの原因の候補は?
上記のような診断の使いないお尻の痛みのことを「深殿部痛(deep gluteal pain)」と呼ばれる場合があります。厳密な診断がつかないから「腰痛」、「腹痛」と同様に、不明確な名称で呼ばれるわけです。
一般的に殿部の痛みの原因としては、
・腰椎椎間板ヘルニア
・坐骨神経痛(梨状筋症候群)
・股関節由来の痛み
・殿部の神経由来の痛み
・殿部の筋肉の痛み
・殿部の筋間にある滑液包の痛み
などが想定されます。
病歴、問診、画像、身体所見などによって診断が下され、それに応じた治療法が選択されます。しかし、上に挙げた症状はこれらにはどうも当てはまらないようです。診断がはっきりせず、そのために治療法も手探りとなってしまいます。
殿部の神経を精密触診で辿ってみた
私は、精密触診という技術を用いて、痛みの発生源を探します。殿部の痛みに対処するとき、深さをごとに痛みの原因を探っていきます。
1)皮膚に近い浅い層では、上殿皮神経、中殿皮神経、下殿皮神経などの皮膚の感覚を担う神経を探ってみます。これらの神経は皮膚の感覚を担うので、筋肉の働きを悪くするものではありません。痛みさえなければ力を発揮できるので、あまり筋が痩せていかないのが特徴です。
2)大殿筋の深部の神経としては、上殿神経、下殿神経、坐骨神経、後大腿皮神経、陰部神経などがあります。
これらに対して、精密触診の一つであるスクレイプ法で辿ってみたところ、1)のうち上殿皮神経と中殿皮神経、そして2)のすべての神経に痛みが誘発されました。この方法は、通常の健康な神経では全く痛みを誘発しない方法ですので、強く押しつぶすような方法ではありません。殿部のほぼすべての神経に「異常」がありました。
これらに対して、組織間リリースを用いて治療してみたところ、痛みは軽減していきます。精密触診での痛みが軽減し、しゃがみ込みでの痛みも軽減します。梨状筋付近の痛みは残っていましたが、確実に即時的に痛みは軽減しました。しかし、殿部の末梢神経を全長にわたってリリースしても、2-3日で痛みが再発しました。
当初は、組織間リリースの完成度が低いのかと思っていましたが、大坐骨孔から出る神経すべてに痛みが再発するので、どうも狙いどころが違うみたい。大坐骨孔を通る神経・血管すべてに痛みが再発したことがヒントなのではないかと考えました。
大坐骨孔という穴に着目
一度は軽減したはずなのに、数日のうちに大坐骨孔から出てくるすべての神経や血管に痛みが再発しました。このことは、大坐骨孔という神経・血管の出口となっている穴に問題があるのではないかと思われます。そこで、大坐骨孔の中で神経や血管がどのようになっているのかを探ってみることにしました。
精密触診で探ってみたところ、血管・神経はひと固まりの束状になり、しかも大坐骨孔の下側にある仙棘靱帯や上側にある仙腸関節下面の関節包とその束とがべったりと癒着していることがわかりました。また束自体も密着しており、ひとかたまりになってお互いに癒着していることがわかります。さらに。坐骨神経の下側から深部を探ってみると、仙骨神経叢が仙骨前の腹膜に癒着していると思われる硬さがありました。
このような精密触診は、あくまでも指先の感覚で得られた情報なので確実性の高いものではありません。そこで、エコー画像と組織間リリースの結果の2つにより、上記の触診の結果に裏付けを取る必要があると思いました。
エコーで確認
左側のみ、大坐骨孔内の神経・血管の束をバラけさせるように、組織間リリースを行なった結果、左のみしゃがみ込み痛みが消失しました。その時のエコー画像を左右で比較してみたいと思います。
左と右を比較すると、右の方が密集しているように見えます。これでははっきりしませんが、この動画を見ていただくと、右のほうが密集しているのがよりはっきりとわかります。
その後、右側もリリースすると、しゃがみ込み時の殿部痛が消失し、その後1週間経っても再発は見られないようです。どうやら、大坐骨孔内の神経・血管の癒着が原因だったのではないかと推測されます。
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