下腿外旋症候群とは?
膝関節の最終伸展域20°において,脛骨は約15°外旋すると言われています。
これは,大腿骨内側顆の関節面が外側顆の関節面よりも長く,また内側顆が内方に傾斜しているためと言われています。
また,膝伸展最終域では前十字靭帯が緊張するので,脛骨が外旋していきます。
このような生理学的な回旋運動はスクリューホームムーブメントと呼ばれています。
スクリューホームムーブメントで完全伸展した膝は,主に膝窩筋の作用による下腿内旋によって解除されます.
脛骨大腿関節(FT関節)のキネマティクス異常として,膝関節伸展に伴う過度の下腿外旋,膝屈曲に伴う下腿内旋不足がしばしば見られます。
下腿が外旋位であることによって,膝関節疾患や機能異常につながるとともに、それは膝疾患の治療を難しくします。
このような膝の異常な回旋動態を「下腿外旋症候群」と名付けました。
異常な回旋アライメントでの運動を反復することは膝内側へのストレスを増大させ,痛みや機能低下を引き起こします。
“健常”大学生の下腿外旋症候群
大学教員時代に膝OAに関する授業で、以下に記載するような実習を行いました。
多少痛みが生じてもうろたえることなく冷静に触診すれば,その原因が明らかとなり,具体的な対策を見つけることができます。
<マルアライメントの評価>
- 大腿骨遠位部に対して脛骨近位部が外方に偏位していることを触診および観察で確認
- 脛骨粗面が外側に偏位していることを確認
- 最終伸展の20°でスクリューホーム運動が過剰に起こっていること,伸展中の腓骨頭の前方移動が外側上顆よりも後方で止まってしまうことを確認
以上から、ほぼ全員において下腿が過外旋していることを結論付けます。
<マルアライメントの他動矯正>
次に,膝屈曲20°で,大腿骨に対して脛骨を内側に押し込みつつ下腿を内旋させ,そのまま他動進展させると“理想に近い”完全伸展位を獲得できることを確認します。
このときに,健常なはずの学生たちの膝に異変が起こります.
具体的には,理想のアライメントに近づいたときに膝蓋下脂肪体や内側側副靱帯周囲に痛みを訴える学生が続出しました。
ここからが学習です。
<痛みへの対応>
異常なアライメントで数年間過ごしてきた軟部組織は,正常なアライメントに対して抵抗します。
異常なアライメントの動きを許すが,正常なアライメントを許さないような緊張があり,これには軟部組織の癒着が関与しています。
具体的には矯正位でMCL前縁に痛みを訴えた学生では,その前縁を後方に向けてリリースすると
MCLは最短距離を確保することができるようになり,痛みが消失しました。
また,矯正位で膝蓋下脂肪体に痛みを訴えた例では,脂肪体深部で膝横靭帯との間の癒着を解消して痛みが消失しました。
以上のように,下腿外旋症候群は若いときから発生し,その状態で軟部組織が適応してしまいます。
実際には運動時痛はなくても,驚くほど多くの学生が圧痛を訴えます。
これに対して,アライメントを治そうとすると癒着している軟部組織は抵抗を示しますが,リリースにより癒着が解消されれば痛みは消失し,
理想のアライメントを保ちやすい状態が獲得されます.
臨床への応用
実際、臨床では運動時痛が生じている患者さんが目の前に現れます。
特に膝関節OAと診断された方が多いかと思います。
変形している=手術でしか痛みはとれない
とするのではなく、まずは徒手的に改善できる部分を模索し、治療にあたるべきだと考えます。
もし、膝OAと診断された方がみえたらまずは下腿外旋が生じているかを確認し
その拘縮の解消、そして膝屈曲に伴う十分な硬い内旋運動を回復させるように治療してみて下さい。
膝OAの具体的な治療に関しては、後日アップします。
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