アスリートなどのスポーツをする患者さんで「肩が急にあがらなくなった…」 などの症状を訴える方の治療について悩んだ経験は、ありませんか?
この記事では、セラピストなど治療家の皆様に役立つような「肩関節可動域の治療」について分かりやすく解説いたします。ぜひ、読んでみてください。
オーバーヘッドアスリートとは?
「バレーボールや野球、ソフトボール、ハンドボール、テニス、やり投げ、水泳」など上肢の挙上位で動作を行うスポーツを行う競技者のことです。
肩関節の可動域はどのように改善できる?
オーバーヘッドアスリートの肩関節の可動域が制限されているとき、どのように治療を進めていくのが良いでしょうか。
少し手間はかかりますが、治療の際には骨盤から丁寧にみていく必要があります。次に、肩関節可動域に起こる疼痛の原因と治療の手順をご説明します。
肩関節可動域に起こる疼痛の原因と治療手順
1)大殿筋から同側の胸腰筋膜に起こる緊張伝達
まずはじめに、骨盤のアライメントやforce closure(筋・筋膜)をみていきます。
これらの不良は、大殿筋から同側の胸腰筋膜に緊張伝達が起こっていることがあり、そのままだと荷重により広背筋の緊張を引き起こしてしまいます。
このため、正常な荷重伝達とforce closureを回復させて、大殿筋の緊張が対側の胸腰筋膜に伝達される状態を確保しておくことが望ましいと考えられます。
2)広背筋と腹壁(内腹斜筋)の癒着
次に、胸郭と骨盤との間の可動性を低下させる原因となるのが広背筋と腹壁(内腹斜筋)との癒着です。
これにより、胸郭は腸骨稜に引き寄せられ、胸郭と骨盤間だけでなく、胸郭内の可動性を著しく低下させている場合があります。
3)腹筋群の癒着も胸郭の可動性に影響を与える
また、腹筋群の癒着も胸郭の可動性に影響を与えると考えられます。
特に内腹斜筋と腹横筋間の癒着により、中位・下位胸郭の拡張性が制限され、後屈や回旋に大きな影響を及ぼします。
もちろん外腹斜筋と肋骨弓との癒着、腹直筋と内腹斜筋との癒着なども治療対象とします。
4)前鋸筋・広背筋、前鋸筋・長胸神経の癒着
胸郭の自由度を制限する要因には側面における前鋸筋と広背筋、前鋸筋と長胸神経の癒着も考えられます。
これらは胸郭内運動を制限し、さらに肩甲帯や肩甲上腕関節の動きにも直接的な悪影響を及ぼします。
5)広背筋・前鋸筋・大内転筋が癒着を起こしやすい
肩甲骨外側では、側臥位での睡眠習慣によって、広背筋と前鋸筋や大内転筋が癒着を起こしやすく、これらの癒着は上方回旋を外側でブロックしてしまいます。
各筋の筋間を割創(かつそう)させ、広背筋を胸郭から離開させずに上方回旋を行える環境を整えます。
場合によっては、胸背神経が広背筋と前鋸筋の滑走性を低下させていることもあります。
6)肩甲骨内上角滑液包の癒着
肩甲骨内上角では、僧帽筋、肩甲挙筋、棘上筋にまたがる滑液包の存在、そして肩甲挙筋と後斜角筋や第1、第2肋骨およびその間に介在する内上角滑液包の癒着で、方回旋に伴う内上角の下方への移動が制限されています。
一方、肩甲骨内側では菱形筋と肩甲背神経の癒着により肩甲骨内転・下方回旋の機能が低下しやすく、上方回旋開始時の*setting phaseを失わせてしまいます。
*「setting phase」とは、0〜30°まで上肢挙上をする時に、肩甲骨が初期の位置から5°下方回旋すること。(上肢挙上の安定性を高める)
7)大胸筋・上腕二頭筋短頭・長頭・広背筋停止部・烏口突起・小胸筋との癒着
前面では、大胸筋と上腕二頭筋短頭、長頭、広背筋停止部、烏口突起、小胸筋との癒着により、上方回旋に伴う大胸筋の内側への移動が制限されやすく、大胸筋が遠回りすることによる上方回旋および肩関節外転の制限が起こりやすい状態になります。
大胸筋の内側への滑走性を改善して、これらの制限を取り除く必要があります。
8)腕神経叢の癒着
さらに、腕神経叢は鎖骨下筋、第2・第3肋骨、小胸筋、広背筋などと接触しながら外側に向かうため、これらとどこで癒着を起こしてもおかしくない状態にあります。
そして、腕神経叢の癒着は筋の癒着よりもさらに顕著な伸張性の低下を引き起こします。
9)後部・腋窩部・前部・上部と滑走性の改善の治療
このあと、肩甲上腕関節の可動性に対して、後部、腋窩部、前部、上部と滑走性の改善の治療を勧めていきます。
以上の1~9の手順に沿って進めることによって、しなやかな肩が蘇ります。
まとめ
今回は、アスリートの肩が上がらない原因と治療法について解説しましたが、ご理解いただけましたか?
この方法は、スポーツをしていない方であっても、同じ手順でみていけます。
肩が上がらないからといって、肩甲上腕関節のみを診るのではなく、隣接する全ての関節からみていくことが大切なポイントです。
この記事をもとに、野球やテニス、バレーボールをしている患者さんがきたらこの手順で確認し、どこで問題が起きているのかを判断してみて下さい。
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