産前に骨盤と胸郭を整えるという選択肢

ウィメンズヘルス

産前におこる骨格の変化とコンディショニング

妊娠中には子宮が大きくなり、それに伴って骨格にも変化が起こります。まず肋骨と背骨、2番目に骨盤に変化が起こります。

まず、お腹が大きくなるにつれて肋骨が押し上げられ、また外側に押し広げられます。お腹が突き出てくるので、バランスを撮るために反り腰になりやすいのも特徴です。骨盤の弛みは出産の2週間程度前から著明になり、ちょうどその頃に赤ちゃんの頭が下がってきて生まれる準備が始まります。まとめると、肋骨の拡張、背骨のカーブの変化、骨盤の弛み、という3つの骨格的な変化が起こります。しかし、出産という最も重要なイベントにおいて、骨格の変化はどうしようもないものであると考えられることが多く、それらに対して十分なケアは行われていないのが現状です。

適切な骨格へのケアを行うことによって、出産に関わるいろいろな不調を改善・解消できるのです。簡単に産前・産後の骨格ケアについて説明させていただきます。

産前にこそ”リアライン”を!

リアラインというのは、「骨格の歪みを整える」という意味です。もともとはRe-alignという英語ですが、蒲田が開発した歪み対策の商品にリアライン(ReaLine)という名前をつけました。私どもは、関節の歪みを整える方法の普及に取り組んでいます。

産前・産後の不調(マイナートラブル)として、尿もれ・頻尿、呼吸の困難さ、つわり後の胃腸の不調、脚のむくみ、骨盤や背中の痛みなどが代表的です。これらのうち幾つかはリアライン(歪み対策)によって解決できるのです。

1. 妊娠後期のコンディショニング

妊娠後期には、胎児の体重が増えて子宮がますます大きくなります。子宮は腹部の内蔵を押しのけるように上と前に拡大しようとしますので、胃腸、そして膀胱や直腸なども圧迫されます。また、肋骨も押し広げられ、もうこれ以上広がらないというくらいにまで広がってしまっています。

主な不調としては呼吸が苦しい、胃もたれ・食欲不振、便秘、頻尿、尿もれ、腰痛や背中、首の痛みなどが起こります。首から上に痛みが広がり、頭痛が起こる場合もあります。また、骨盤へのストレスも増大し、仙腸関節障害を含む腰痛に悩まされることも少なくありません。もともと肋骨の動きが大きくない女性の初めての妊娠では、この肋骨の動きの変化が小さいため、お腹の上部が十分に膨らみにくいこともあります。痛みや息苦しさのために、睡眠不足になる場合もあるようです。

胎児への影響を考えると、積極的なボディーワーク’(運動療法)も躊躇されます。これらに対して、下記のような対策を講じることで、快適な睡眠(背臥位、寝返りを含む)、食生活、適度な運動、下肢の浮腫み軽減が得られます。いずれもリアライン・コンセプトに基づく骨盤や胸郭の治療経験によって得られた理論と技術を用い、母体や胎児にストレスを与えずにコンディショニングを行うことができます。

1)肋骨の可動性改善

お腹が大きくなってはち切れそう、と思っても実はまだ余裕があります。セラピストとしては、胎児には影響を与えることなく、残されているお腹のゆとりを最大限使えるようにすることで、お腹を大きくすることができます。

肋骨が広がるのを妨げているのは、皮下組織(皮下脂肪やファシアと呼ばれる皮下の膜状の組織)そして骨盤と肋骨をつなぐ筋肉です。筋肉としては、広背筋や背筋、腹筋群などの境目や重なっているところが癒着しているときに、肋骨の動きを妨げてしまいます。特に妊娠後期には、運動が減り、寝返りしづらい状態になるので皮下組織や筋の癒着が起こりやすい状態にあります。

 これに対して、組織間リリースという技術を用いたファシアケアを行うことで、癒着で硬くなった皮膚の弛みを取り戻し、癒着して滑らなくなった筋肉の動きを回復させる事ができます。それにより、骨盤に対して肋骨を大きく動かすことができるようになりあます。

 

2)腹筋の滑りを改善して柔軟性改善

次に、腹筋を広げていきます。腹筋の正面には、上下に向かう腹直筋がありますが、それ以外の外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋は層構造をなして腹直筋から肋骨・背筋の間にあります。これら4つの腹筋は互いに広い面積で接しているので、くっつきやすいのです。さらに妊娠中は張り裂けそうなくらいに緊張しているので互いに強く押し付けられ、癒着しやすい状態にあります。その癒着がさらに腹筋の伸びを制限してしまいます。ファシアケアにより、腹筋間の滑りを改善することで、腹筋の本来の柔軟性を取り戻していきます。

 

3)骨盤の歪み改善

骨盤や腰に疼痛があると骨盤がゆるいからと思いがちですが、実際に外部からわかるくらいに骨盤が動きやすくなるのは出産の2週間程度前になります。つまりそれまでは骨盤は妊娠をしていない人と同程度の安定性があって、それほどグラグラ動いているわけではありません。むしろ、妊娠中以外にも起こる普通の腰痛、普通の骨盤痛と同じようなメカニズムである可能性の方が高いと言えます。

例えば、股関節の外側の筋肉が固くなると、骨盤が外に向かって広げられてしまい、骨盤の後ろ側にある仙腸関節を広げるような力が生じます。この力に対抗するためには、仙腸関節を安定させる役割を持つ背筋(多裂筋)が防御的に強く緊張することになり、腰部の痛みが起こります。このような場合は、硬くなっている股関節外側の筋肉を十分に緩めることが必要になります。

片側の股関節の前の筋肉が固くなると、骨盤も前後にねじれたような状態になります。つまり、股関節の前が硬いとそちら側の寛骨が前に引かれ、反対の寛骨は相対的に後ろに引かれた状態になって捻れてしまいます。この場合は、硬くなった股関節前面を柔らかくする必要があります。このような治療を行うことで、骨盤の歪みに対して適切な位置関係を取り戻すように促すことができます。しかし、これには組織間リリースという高度なテクニックが必要で、専門的なトレーニングを受けたセラピストの治療を受ける必要があります。

4)痛みに対する治療

妊娠中であっても、非妊娠者と同様のメカニズムで腰痛や背部痛、頭痛などが起こります。つまり、妊娠中だからと考える前に、的確にメカニズムを理解することにより、確実な治療法もみえてきます。上記のような胸郭の可動性、骨盤の歪み、あるいは筋肉癒着などの治療で、メカニズムを改善していくことができます。

一方、それでは改善しない痛みについては、痛みの発生源に対する「対症療法」が必要です。対症療法については「Pain Therapy」をご参照ください。

2.臨月のコンディショニング

臨月に入って2週間ほどすると、徐々に胎児が下がり、出産の準備が始まります。胎児が下がるのは、骨盤が広がり、産道が徐々に広がっていくことと関連していると考えられています。

産道が広がるということは、骨盤の前にある恥骨結合や後ろ側の仙腸関節が弛んでいくことを意味しています。左右の仙腸関節と恥骨結合のという3つの関節にバランス良く弛みが起こるのが理想的ですが、それ以前の骨盤の状態によっては、どれか一つが極端に弛くなることがあり得ます。つまり、3つのうち、1つの関節に負担が集中することを意味します。その結果、出産時にその部分に特に重症な靭帯損傷が発生する危険性があります。これが産前から産後に仙腸関節痛を持ち越す原因と考えられます。もともと関節が弛く、出産時に負担が集中し、より重度の仙腸関節痛になってしまう可能性があるのです。

一方、胎児が下がることでお腹の上部には余裕が生まれます。みぞおちあたりの皮膚が柔らかくなり、呼吸も少し楽になってきます。このときに、ゆっくりと大きく呼吸をすることで、失われつつあった腹横筋の動きが回復することが期待されます。腹横筋の機能回復は、出産時や産後の体幹の安定性を再獲得する上でも重要になります。

 

1)骨盤のコンディショニング
臨月のコンディショニングとして、骨盤関節へのストレスを分散するために、骨盤をできるだけ左右対称にしていきます。具体的には可動性の小さい関節の可動性を取り戻すこと、ストレスの大きい仙腸関節へのストレスを軽減すること、仙骨の前・後傾の可動性を高めて、出産時に胎児の頭部が通る際に最適な仙骨傾斜を得ることができるようにすること、上部腹横筋の機能改善、などに取り組みます。

臨月にもなると皮下脂肪が増えて、骨盤の骨を指で正確に触り分けるが難しくなり、骨盤の歪みを正確に把握することは困難になってきます。経験豊富なセラピストによる評価が必要になります。多くの場合、骨盤が内部から押し広げられるので、自然に対称に近づいていきます。そのときに、どちらかの仙腸関節に痛みがあれば、仙骨の傾きが影響しているかもしれません。

仙骨の下には尾骨があり、尾骨の周辺は座っているだけでも癒着が起こることがあります。尾骨周囲に癒着が起こると、尾骨が前方に引き込まれた状態となり、本来は前に傾いてうなずいた状態になっているはずの仙骨が、逆に起き上がってしまいます。その状態をできるだけ解消して、仙骨のうなずき運動を獲得しておきます。このことは産道を拡大することにも繋がります。

 

2)骨盤底筋のコンディショニング
出産間近になると、出産をスムーズにするためにも骨盤底筋を柔らかくしたいものです。ただでさえ座っているときに圧迫されている骨盤底筋には癒着がおこりやすく、出産経験があるとそのダメージでさらに癒着が強い場合があります。その結果、骨盤底筋に力を入れたり抜いたり、というコントロールが難しくなり、出産時にも無駄な力が抜けにくくなることが考えられます。可能であれば、組織間リリースの技術を持つセラピストに力を借りて骨盤底筋の癒着を解消しておくことが望まれます。

3)胸郭・腹筋のコンディショニング
胎児が下がってきてお腹の上部に少し余裕が出てきたら、速やかに腹筋群のエクササイズを開始します。とはいえハードな腹筋運動をするのではなく、ゆったりと大きな呼吸で、失われた腹筋群の動きを取り戻していきます。腹式呼吸といっても腹部の中でも上部のみが動くので、みぞおち付近の肋骨を最大限に拡張しながら、腹筋を膨らませたりすぼめたりします。可能であれば、息をはくときには、風車を回すようなつもりで強い呼気を10秒以上続けるようにします。このように腹横筋を使うことによって、子宮に上から下にむかって押し込むような刺激を加えていきます。

まとめ

妊娠中には、日常生活を超えるような刺激を子宮に与えないように最大限の配慮が必要です。もちろん、産婦人科医との連携が不可欠であり、想定されるリスクをすべて頭に入れて丁寧にコンディショニングを行っていきます。妊婦が不快に感じること、痛みや不安を与えることは一切行いません。いろいろな不調が解決できることを知っていただくことで、今後産婦人科医と十分なトレーニングを積んだセラピストが連携できる環境が増えることを期待したいと思います。

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