■ 仙腸関節痛とは
骨盤の後ろ側が割れそうに痛い、痛くて歩けない、立ち上がることも座ることもできない、といった症状に苦しむ場合があります。ぎっくり腰として急激に起こることもあれば、徐々に痛みが強くなることもあります。
仙腸関節は上半身と下半身をつなぐ位置にあり、どのような動作をしても負担がかかります。一度痛みが起こると、何をしても激痛が生じることも珍しくありません。
骨盤の後ろ側には左右一対の仙腸関節があります。仙腸関節がずれたり、広がったりすると関節をまたいでいる靱帯が強く引かれて損傷してしまうことがあるのです。いわゆる「骨盤の歪み」があるか否かについては、まだ科学的に結論は出ていません。「骨盤は動かない!」と断言する医師や研究者は少なくないのです。
■ 仙腸関節は動く!
これまでの研究で、骨盤を外部から固定して左右対称に整えることで症状が改善することがわかっています。つまり、骨盤の歪みを整えることで症状が改善するということから、もともと歪みが原因で痛みが起こっていたのだと推測されるのです。
では、どのように動くのでしょうか? まずは実際に動くかどうかは別として、体の動きを分析する学問である「バイオメカニクス」では、3つの面上で動きを分析します。
- 下の左の図では、後ろから見て、左右の骨が回転している様子が描かれています。このような回転は「寛骨の下方回旋」と呼ばれ、仙腸関節の上部が左右に広げる動きということになります。
- 左から2番目の図では、上から見て左右の骨の前側が内側に向かって回転し、後ろ側が外に開くような力が加わる状態を示しています。これは「寛骨の内旋」と呼ばれ、仙腸関節の後部にある靱帯を引き延ばそうとする力が生まれます。
- 左から3番目の図では、側面から見て、右の寛骨が前に傾き、左の寛骨が後ろに傾いている様子が描かれています。便宜的に「寛骨の前傾もしくは後傾」と呼ぶことにします。
- 一番右側の図は、左右の寛骨は一定の位置関係に保たれている中で、中央にある寛骨が傾いている状態を示しています。仙骨の下に連なる尾骨(いわゆる尾てい骨)が左右のどちらかに引かれている状態では、仙腸関節に少なからずズレが生じている可能性があるのです。
以上の3つの面から寛骨を観察すると、それぞれ仙腸関節の靱帯を引き伸ばし、場合によっては損傷させてしまうような動きが起こりうるのです。
■ 仙腸関節痛の一般的な治療法
仙腸関節痛のもう一つの特徴として、痛みを発している靱帯や関節内にブロック注射(局所麻酔)を打っても、効果が一時的で長続きしないことが多いのです。仙腸関節を安定させる靱帯に痛みがあるとき、その靱帯を引張る力を弱くすることが「メカニズムに対する治療」、靱帯そのものに麻酔をかけるのが「対症療法」となります。対症療法の効果が一時的であるとき、メカニズムに対する治療が必要ということがわかります。
ブロック注射は、痛みの原因が腰ではなく仙腸関節にあることを突き止める上で、たいへん有用です。一方で、薬の効果は一時的で、根本的な解決には至らないことが多いのも事実です。虫歯の治療で麻酔が聞いているうちは歯の痛みはありませんが、麻酔が切れてくると治療後であってもズキズキうずいた経験があるのではないでしょうか?
仙腸関節痛に対する手術はあまり頻繁には行われていません。海外では、iFuseという仙腸関節を固定する手術法が普及しつつあり、手術件数が飛躍的に増えています。この治療法は日本では2020年の時点では認可されていないのです。
仙腸関節固定術について、一つ心配な点があります。それは、片側の仙腸関節が固定されることで、反対側の仙腸関節に負担が集中してしまうのではないかという点です。もしもそのようなことが起こると、反対側の仙腸関節を固定することにもなり、次に腰に負担が集中してしまうことになるかもしれません。
■ 仙腸関節痛のメカニズムに対する治療法
仙腸関節痛のメカニズムに対する治療として、痛みを発している関節が動かないようにする「安定化」と、歪みやズレを解消させる「歪み改善」の2つが必要となります。一方だけではうまく行かないので、両方を同時に達成するような治療が必要です。
左の図で、マルアライメントは「歪み」を意味します。歪みが生じると、関節への負担を吸収したり分散ししたりする能力が低下して、「応力集中」が起こります。それによって、仙腸関節の周辺の靱帯にストレスが集中して痛みが生じていると考えられます。
家が歪んで雨漏りがおこってしまったとき、床を拭くのが対症療法、屋根を治すのがメカニズムに対する治療となります。マルアライメントによって仙腸関節に痛みが生じた場合、症状を治療するだけでは不十分で、マルアライメントを作っている原因(原因因子)を治療することが必要です。
雨漏りが起こったら、床を拭くだけでは不十分。屋根の修理が必要です。
■ 歪みを治す! 原因因子に対する治療
仙腸関節の歪みを作る原因は様々ですが、その中で治せるものとしては、筋肉の働きを改善すること、筋肉などの硬さを改善すること、の2点に集約されます。筋肉の働きとは仙腸関節を安定させる筋肉である大殿筋(お尻の筋肉)や多裂筋(背筋)、腹横筋(一番深部にある腹筋)などが重要です。これらを効果的に鍛えることができれば、骨盤のグラつきが小さくなり、関節や靱帯への負担が軽減されると考えられています。
私は、仙腸関節がズレたまま、歪んだままで安定させてもさほど良い効果が得られないのではないかと考えています。まずは、歪みを改善することが先決なのではないか、と思うのです。そこで、上で説明したような歪みのパターンを調べ、どの筋肉を緩めたら歪みが解消されるのかを明らかにした上で、その筋肉を効果的に緩めていく治療法が必要だと考えています。
筋肉が固くなる原因として、「滑走不全」すなわち「癒着」が挙げられます。筋肉同士が滑らなくなると硬くなり、骨盤を強い力で24時間引っ張り続けることになります。歪みを治すには、まずこの筋肉の緊張を取り除くことが不可欠なのです。
仙腸関節の歪みを作る原因は様々ですが、その中で治せるものとしては、筋肉の働きを改善すること、筋肉などの硬さを改善すること、の2点に集約されます。
蒲田和芳
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