足とパンプスのフィッティングの難しさ
男性の革靴やスニーカーであれば靴紐で調節できるので、多少大きめの靴でも問題はありません。しかし、女性のパンプスはそうはいきません。足の形は千差万別、靴は木型によって作られ一定の形を持っています。このため靴のサイズはピッタリでも、小指の一箇所が少し圧迫されるだけでも足に合わない靴となってしまいます。痛くなりそうだから大きめのサイズにすると、今度はゆるゆるになってしまい、結局ピッタリの靴が見つからないということになってしまいます。サイズがピッタリでも歩いているうちに足の一部分が痛くなることは、誰もが少なからず経験していることと思います。運命の靴に出会うまで、靴ジプシーとしていろいろな靴を探し回ることになってしまいます。
ヒールの低いパンプスでもフィッティングは難しいのですが、ハイヒールでは斜面の上に足が乗ることになるため足が前に滑ります。さらに、つま先の指が反った状態になるため、指自体が硬い状態(可動性が乏しい状態)になっています。さらには、足の指は多少のねじや拘縮があって、指の関節が上に突き出している場合も多く見られます。このため、つま先のどこか一部分が靴に食い込むことになりやすくなります。つまり、ハイヒールではローヒールよりも遥かにフィッティングが難しいのです。
理想的なハイヒールパンプスを作るには?
靴メーカーの立場では、いかにして万人の足に合う靴を作るかを考えて木型に修正を加えます。さらに、人によって足の幅や周径が異なるので、靴幅のバリエーションを増やすことも考えます。細めの足だとD幅、幅広だとEE幅などのように、一定の基準があります。しかし窮屈だからといって幅の広い靴を選ぶと、窮屈さは軽減されても歩いているうちに足が前に滑ってしまうので結局つま先は締め付けられることになります。ピッタリでも地獄の痛み、弛めでも地獄の痛み苦しめられることになります。
一つの選択肢として、伸縮性のある素材の靴を積極的に供給することが考えられます。一般的にはエナメルレザーやスムーズレザーよりもスェードレザーのほうが柔らかく、指先への圧迫も軽減されます。しかしメーカ側としてはよい選択肢であっても、消費者にとって、ユーザーにとって良い選択肢とは限りません。スェードレザーの場合は傷がつきやすく、また秋冬には適していても春夏には場違いなものになってしまいます。
ハイヒールパンプスで足の前すべりを防ぐ方法としては、ストラップの設置があります。ストラップはちょうど靴紐のように、足の甲の部分や場合によっては足首で前すべりを止めるように作用します。足が前に滑らないことで、靴の爪先部分については弛めのものを選択しやすくなります。しかし、つま先が弛く、ストラップがついている靴がオシャレな靴だと思えるかどうかはユーザーの感性に問いかける必要があります。このようなスタイルを好まない女性にとっては、選択肢にすら上がらないことでしょう。
女性靴のバリエーションは、デザインやスタイル、靴のサイズ、幅、カラー、素材などといろいろな選択肢があり、様々な好みに答えるにはこれらの掛け算で、無限の在庫が必要になってしまいます。しかも選択肢が多ければその中で商品を選んでもらえるという保証もありません。結局のところ、メーカーや販売店としてはバリエーションを極力減らし、売れ筋に絞り込んで製造すること選択します。
「足を靴に合わせる」という選択肢
足の形は多種多様です。一見して同じように見えても、細かく見ると一本の指が曲がっていて、指の関節が上に突き出していることなどもあります。指の形や僅かな変形も含めると、更に厄介なことに左右で足や指の形が異なる人も珍しくありません。これにしっかりとフィッティングしようとすると、とても弛い靴を選択するか、人の足の数だけ靴を設計することが必要になってしまいます。足の3次元スキャンから、カスタムメイドの靴を作るのは一つのソリューションかもしれません。しかし、個別に木型を作ることになるので、どうしても高額になってしまいます。ただでさえ売れ筋の価格帯が下がってきているのに、10万円もするカスタムメイドの靴を買いたいという人がそれほど多いとは思えません。
そこで、発想を変えて、足を靴に合わせる方法を検討してはどうでしょうか? 足は26個の骨からできていて、骨を連結する関節にはそれぞれ可動性があります。足の形のバリエーションは、26個の骨を連結している関節の位置関係によってできています。そして関節の位置関係は、皮膚や筋肉の緊張のバランス、骨を一定の方向に引き込むような筋肉や腱の過緊張(もしくは癒着)、さらには靱帯の弛みによって起こる関節の過剰な可動性(アーチの降下)などの組み合わせによって決まっています。
リアライン・コンセプトの治療では、足部の様々な疾患に対して、足の変形をこれらの関節の位置関係を整えることによって最適な位置関係に修正していきます。この技術をリアライン・フットと呼んでいます。リアライン・フットの技術を応用すると、足の歪みを整え、癖のある形を変えて一般的な木型にフィットするような形に変化させ、さらにはつま先の骨の位置関係を変えたり浮腫を軽減させてつま先を細くすることもできます。窮屈で足が入らなかった靴が、リアライン・フットによってゆるゆるになることも珍しくはありません。つまり、足を靴に合わせることが可能なのです。仮に、これを全てのカスタマーに適応すれば、店頭で足と靴のフィッティングの選択肢が大幅に拡大できます。これによりサイズや形状のバリエーションを減らせるだけでなく、ピッタリの靴が見つけられないという売り逃しをへらすことができます。女性向けの靴の販売形態を革命的に変える可能性があると考えています。
リアライン・フットの手順と技術
リアライン・フットとは、足の歪みを改善して最適化する技術です。その背景には、足の変形のパターンを理解し、そのパターンごとに足全体の変形を修正して足全体の形を変えることと、足の指を一本ずつ整えていく局所の修正とを組み合わせていくことが必要です。それに必要な知識として、足の変形のパターンを理解し、その修正のステップを理解することが必要です。筋肉や腱の癒着によって関節が硬くなっていることがあるため、その癒着を解消させる組織間リリースの技術が必要となります。
さらに、靱帯が弛んでいる場合は関節が不安定になっているので、体重をかけるとアーチが降下してしまします。アーチが降下すのを組織間リリースやトレーニングで防ぐことは現実には不可能です。現実的な対応としては、インソールによって足の骨を支えるという方法を選択すべきです。その場合に骨ではなく筋肉や腱を圧迫してしまうと痛みを作り出すことになるので、歩けなくなってしまいます。筋腱を圧迫せず、骨を的確に支えることができるような凹凸を作り出すことが求められます。詳しくはこちらの記事を参照してください。
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